鎌倉の映画-小津安二郎・原節子

神奈川近代文学館「生誕120年 没後60年 小津安二郎展」のパネルから

鎌倉にゆかりがある小津安二郎監督作品と原節子出演作品の紹介

芸術の香り高い街、鎌倉。中でも芸術性に大変こだわった監督が小津安二郎です。小津は鎌倉に住み、彼の仕事場である松竹大船撮影所が鎌倉にあったことなどから、小津の作品には鎌倉が度々登場します。

また、原節子も鎌倉に住んでいた俳優です。40代で映画界を去ってから以後、それまでの関係者とは交流を断ち、鎌倉で静かに暮らしていたそうです。

映画のありがたいことは、作品が生産物として残り続けるということです。だから、私たちはいつでも原節子の美貌と演技に酔うことができるのです。

円覚寺の石楠花

どうして若くして映画界を去ったのか、どうして独身を貫き通したのか、周りは様々に揣摩するのですが、本当のところは本人にしか分からないことでしょう。

そんなことからも、この俳優にはとても惹かれてしまいます。

私がこれまで観た小津作品の中で鎌倉にゆかりのあるもの、そして同様に鎌倉にゆかりのある原節子が出演した作品を紹介します。

あらすじは書きません。実際に作品をご覧になっていただければ嬉しいです。

タイトル監督制作公開年主な出演者コメント
誘惑吉村公三郎松竹1948年原節子、佐分利信、杉村春子七里ヶ浜のシーンが二度出てくる。遠くにまだ灯台の無い江ノ島が見える。二度とも海際の「財団法人湘南療養所」に入院している杉村春子を見舞うもの。この療養所、実はエリアナ・パブロバというロシア人バレリーナ(のち日本の国籍を取得し、霧島エリ子と名乗る)が開設したバレエスクールの建物だそうだ。
晩春小津安二郎松竹1949年原節子、笠智衆、月丘夢路、杉村春子鎌倉が舞台。海岸沿いの現在の134号線を自転車で走るシーンがあるが、風景が今日の風景とはまるで違っていることに一驚する。笠智衆が三島雅夫を相手に鎌倉の地勢を説明するシーンは面白い。
原作は鎌倉文士の一人、広津和郎の「父と娘」。小説では鎌倉が舞台にはなっていない。ストーリーも異なる点が多い。小説の方も面白い。
宗方姉妹小津安二郎新東宝1950年田中絹代、高峰秀子、上原謙、山村聰鎌倉はシーンとして出てこないが、映画の原作者が鎌倉文士の重鎮、大佛次郎であることからここに挙げさせてもらった。
高峰秀子がとても愛らしい。
麥秋小津安二郎松竹1951年原節子、笠智衆、淡島千景、杉村春子鎌倉が舞台。七里ヶ浜の江ノ島を遠景とするシーンがあるが、「晩春」同様、今日の134号とはまるで違っていて、のどかな田舎道であることに驚く。ラストの麦畑の中を花嫁行列が行くシーンは名シーン中の名シーン。
東京物語小津安二郎松竹1953年原節子、笠智衆、東山千栄子、香川京子、杉村春子タイトルのとおり舞台は東京で、鎌倉はシーンとして出てこないが、原節子が暮らすアパートの部屋に飾られた亡夫のスナップ写真は鎌倉で撮られたもの。
山の音成瀬巳喜男東宝1954年原節子、山村聰、上原謙、杉葉子鎌倉が舞台。「魚三」という看板が掲げられている魚屋が出てくるが、この魚屋は多分現在も雪ノ下にある同名の魚屋だと思う。
原作は川端康成の同名の小説。川端康成は鎌倉文士の一人だ。この小説は川端の最高峰に位置する作品との評価もある。
早春小津安二郎松竹1956年池部良、淡島千景、岸恵子、高橋貞二夫婦と組織下のサラリーマンが抱える普遍的で重大な問題を描く。今日でも全然色褪せない名作だ。さすがは小津と言いたい。
ハイキングのシーンで江ノ島が映る。134号線は空が広く、視界は二次元的に開け、今日とは隔世の感がある。
池部良が格好良すぎる。
彼岸花小津安二郎松竹1958年佐分利信、田中絹代、有馬稲子、佐田啓二、高橋貞二、桑野みゆき、久我美子、笠智衆、浪花千栄子、山本富士子鎌倉はシーンとして出てこないが、映画の原作者が鎌倉文士の重鎮、里見弴であることからここに挙げさせてもらった。
小説は映画とは大分筋立てが違うが、小説では「三上」の家が鎌倉にある。
秋日和小津安二郎松竹1960年原節子、司葉子、佐分利信、中村伸郎、北竜二鎌倉はシーンとして出てこないが、映画の原作者が鎌倉文士の重鎮、里見弴であることからここに挙げさせてもらった。
小説のほうでも鎌倉はシーンとして出てこない。また、小説と映画とでは設定や会話が大分違っている。
端役で初々しい岩下志麻が出演している。
小津は里見の作品を愛読していたそうで、映画制作の上でそれらの作品を大いに参考にしているそうだ。