鎌倉の本-川端康成

鎌倉にゆかりがある川端康成の小説等の紹介
川端康成は鎌倉文士の中でも重く大きな小説家になるだろう。品があって丁寧で、文士たちの間でも別格に尊敬されていたようだ。
鎌倉時代を含めた日本の中世という時代は、ややもすると薄暗いネガティブなイメージを持たれる方もあろうかと思うが、実は人間の剥き出しの活気があり、そんな時代だからこそ、そこに日本らしい伝統的な美の開花が見られた。
私は川端文学がその中世の美に太く繋がっていると考えることから、実際に鎌倉の住人だった川端康成にとって、鎌倉はその芸術において切り離すことのできない歴史の街であり、また居心地の良い「気」に満ちた街だったと思うのだ。
だから、川端康成の作品を通して鎌倉を知り、あるいは鎌倉を深く味わうこともできるのではないだろうか。
以下、私がこれまでに読んだ川端康成の小説や随筆の中から、鎌倉にゆかりがあるものを紹介します。
あらすじは書きません。実際に手に取って読んでいただければ嬉しいです。
タイトル | コメント |
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日も月も | 舞台は鎌倉と京都。長編。鎌倉と京都は川端康成が特に愛着を持った街だ。 中村登監督、岩下志麻が主演の映画(松竹)があるが、私は残念ながらまだ観ていない。 |
鎌倉アルプス | 「鎌倉アルプス」とは、北鎌倉から鶴岡八幡宮裏、天園、鎌倉市最高峰の大平山から、さらに瑞泉寺や十二所方面へと連なる山々を総称するものだが、ここにはハイキングコースが通っていて、川端らは建長寺から東京湾側の杉田まで踏破している。この随筆は道中の見聞録だ。 |
千羽鶴 | 円覚寺の茶室、北鎌倉の旅館などがシーンとして出てくる。 吉村公三郎が監督した映画(大映)を原作者の川端康成は称賛している。太田夫人を演じた木暮実千代の演技も褒めている。なのに、私はまだ観ていない。 |
山の音 | 鎌倉が主な舞台。川端康成の最高傑作との声もある。 成瀬巳喜男監督で映画化(東宝)されている。原節子主演。 |
舞姫 | バレリーナ一家の崩壊を描く。その家は北鎌倉山内にある。 成瀬巳喜男監督で映画化(東宝)されているが、私は観ていない。波子を高峰三枝子が演じているのでもあるし、是非観たいのだが・・。 |
美しさと哀しみと | 老作家大木年雄の家は北鎌倉の丘にある。鎌倉と京都が舞台。 篠田正浩監督により映画化(松竹)されている。川端の「加賀まりこ」と題された随筆から引用する。「映画「美しさと哀しみと」は、原作にないことは一つもなく、原作にない会話は一つもないが、私がまるで加賀まりこさんのために書いたような、ほかの女優では考へられないやうな、主演のまりこがそこに現れた。」(川端康成全集第二十八巻 株式会社新潮社 昭和57年2月) |
岩に菊 | 鎌倉の古い石の墓に材を取った短編。 |
再婚者 | 鎌倉のシーンとして妙本寺と由比ヶ浜が出てくる。妙本寺は「海棠寺」とされていて、山裾の墓(比企一族のもの)、花盛りの海棠などが描写されている。由比ヶ浜では美しい夕焼けと夕焼けを映す綺麗な波が描写される。 |
夫のしない | 北鎌倉に住む中年夫人と青年の情事を描く官能的短編。 |
再会 | 男は戦争中に捨てた女と鶴岡八幡宮で再会する。敗戦後、荒廃した東京に対して鎌倉は清らかである。短編。 |
過去 | 「再会」の連作。戦後間もない鶴岡八幡宮や若宮大路には米兵の姿がある。 |
夢 | 海からの湿気が垂れこめている鎌倉谷戸の風景が描写されている。短編。 |
生きている方に | 鎌倉と京都が舞台。鎌倉は主人公が住んでいる場所で、その家は海岸まで歩いて行ける位置にある。短編。 |
雨の日 | 春雨に煙る鎌倉の景色が描写される。短編。 |
無言 | 鎌倉逗子間の名越のトンネルに出るという幽霊を題材にした怪談。短編。 このトンネル、出ることで地元では有名だが、私は必要から何度もこのトンネルを行き来しているが、ありがたくないことに一度も同乗していただけていない。 |
鎌倉物語 | 鎌倉各所の社寺や古蹟を紹介するエッセー。 |