鎌倉の本-鎌倉文士

旧大佛次郎茶亭

鎌倉文士の小説等の紹介

いわゆる「鎌倉文士」の中には小説家だけではなく歌人も含まれる。歌人のほうは我々が制作した本「申し訳ございません。只今制作中です。出来上がり次第、ここにリンクを貼ります」で詳しく紹介しているのでご覧ください。

この記事では、鎌倉文士のうち小説家に限定し、彼らの作品のうち鎌倉にゆかりがあるものを紹介します。

なお、鎌倉文士のうち川端康成の作品だけは、別に「鎌倉の本-川端康成」の記事で紹介しているので、この記事では紹介しません。

また、この記事でいう鎌倉文士とは、鎌倉に住んでいた、または鎌倉にある一定期間滞在していた人を指します。だから、たとえば三島由紀夫。彼の名作「豊饒の海」の「春の雪」では鎌倉が主要な舞台として使われていますが、鎌倉文士の中には入りません。

あらすじは書きません。実際に手に取って読んでいただければ嬉しいです。

作家名タイトルコメント
芥川龍之介舞踏会鎌倉に別荘があるという、かつて美しかった令嬢のフランス海軍将校との恋の話。短編。
芥川龍之介鎌倉が舞台。短編。
有島武郎或る女尊大で美貌の持ち主である葉子が主人公。先夫(実は国木田独歩)との間に一女児がある。極楽寺坂から稲瀬川、滑川、乱橋から光明寺あたりの風景が描かれる。滑川に架かる橋を渡るとき、葉子は先夫を発見する。先夫は橋の下で釣りをしている。先夫は葉子とその情夫とに対面する。長編。
泉鏡花星あかり鎌倉の材木座にある妙長寺に滞在中、主人公が乱橋から由比ヶ浜をうろつくなかで体験する怪談。短編。
泉鏡花金時計鎌倉長谷の洋館に住む金持ちを逗子小坪に隠居する子爵の子がやり込める話。
泉鏡花活人形鎌倉が舞台。有能な探偵が鎌倉雪ノ下の屋敷に幽閉された二人の美しい姉妹を救出する痛快活劇。
円地文子賭けるもの我が職業と等しく我が妻に人生を賭けている青年、しかしその妻は我が子さえも愛せない、自己愛も度が過ぎた悪妻で、そこに余生を鎌倉の別荘で送っている祖父を持つ風変わりな、しかし聡明で美しいお嬢さんが入って三角関係を形作る。長編。
鎌倉のシーンとしては祖父の別荘がある宅間ヶ谷、祖父が埋葬された東慶寺がある。
円地文子千姫春秋記タイトルのとおり、豊臣秀頼の妻だった千姫の半生を描いたもの。千姫の養女が鎌倉東慶寺の天秀尼であることから東慶寺のシーンがあり、千姫もこの寺にやって来る。東慶寺の池に蛍が飛び交い、東慶寺のある松ヶ岡が牡丹の名所であることも紹介されている。長編。
大岡昇平鎌倉通信かつて鎌倉にいくつかあった鉱泉宿の一つ「米新亭」に触れられている。また「鎌倉アルプス」(今の明月院あるいは建長寺の裏山から瑞泉寺や十二所方面にまで及ぶ山並)にも言及。短いエッセー。
岡本かの子蝙蝠鎌倉から江ノ島にかけての海岸線の描写がある。
岡本かの子鶴は病みき一夏、鎌倉のH屋という宿で同宿になったかの子と芥川龍之介との交流を日記ふうに綴ったもの。芥川の人となりがよく描写されている。
大佛次郎旅路鎌倉のシーンが多い。
私は別の記事「鎌倉の映画-山田洋次監督ほか」に記載したとおり、同名の映画のほうも面白く鑑賞した。
大佛次郎帰郷主人公の友人が鎌倉に住んでいて、円覚寺と建長寺のシーンが出てくる。長編。
松竹で映画化されている。佐分利信と木暮実千代が主演しているのだが、残念ながら私は観ていない。
大佛次郎素顔の鎌倉大佛次郎は著者代表。鎌倉に住み鎌倉を愛している人々が書いた本。通り一遍の観光本ではない。鎌倉を心から深く味わうために編まれたガイドブックだ。
葛西善蔵「おせい」ほか建長寺に滞在していた葛西のもとに通っていたおせいさんとの話。いわゆる「おせい物」は「おせい」のほか、「蠢く者」「椎の若菜」「死児を産む」「暗い部屋にて」などがある。いずれも短編。実際に葛西善蔵は建長寺の塔頭「宝珠院」に滞在しており、かつて境内にあった茶屋「招寿軒」の娘ハナの献身的な世話を受けていた。その日々を綴ったのが「おせい物」だ。
国木田独歩女難鎌倉の自宅で主人公が、尺八を吹く盲目の男が語る過去を聴く話。長谷辺りの海岸で実際に尺八を吹くシーンがある。
国木田独歩鎌倉夫人滑川の橋下でハゼ釣りをしているとき、橋の上を歩く男女があって、彼らの会話から、釣り客は女が彼の前妻であることを知るという、有島武郎の「或る女」に出てくるシーンと同じシーンが描かれている。短編。
なお、国木田独歩には「おとずれ」という短編があり、これは独歩と佐々城信子(独歩の最初の妻。有島の「或る女」のモデル)の関係が踏まえられている作品だ。
久保田万太郎還暦叛逆鎌倉が舞台。滑川、鶴岡八幡宮一ノ鳥居、由比ヶ浜通りなどが出てくる。短編。
久保田万太郎三の酉材木座の海の描写がある。短編。
久保田万太郎十年......鎌倉での個人的体験など綴ったもの。短編。
久米正雄破船鎌倉の海のシーンから始まる。久米の夏目漱石の娘との恋愛(失恋)を下敷きにした長編小説。久米の親友として芥川龍之介も登場する。芥川は鎌倉に住み、横須賀の海軍師範学校の教師として勤務している。芥川はクールでカッコよく描写されている。久米が漱石と深い関係にあった釈宗演という偉い僧侶に会いに円覚寺を訪れるシーンや鶴岡八幡宮境内のシーンもある。
小島政二郎長編小説 芥川龍之介芥川の友人である小島(小島は芥川の後輩の格)が芥川の自殺に至った背景・原因を書いたもの。非常に興味深い。
小林秀雄実朝謎も多い鎌倉三代将軍だが、小林のこの本はかなり真実に迫っているようだ。実朝の歌の掲載も多い。
里見弴彼岸花作中「三上」の家が鎌倉にある。
別の記事「鎌倉の映画-小津安二郎・原節子」にも記載したとおり、小津安二郎監督で映画化(松竹)されている。
里見弴安城家の兄弟里見弴の自伝的小説。扇ヶ谷の鉱泉旅館、雪ノ下の料理屋、七里ヶ浜などのシーンがある。里見の長兄、有島武郎の心中事件の詳細が書かれ、また関東大震災の模様も書かれる。妻子ある身でけしからぬ昌造(里見弴)だが、里見の人間的魅力が十分に感じられる作品。長編。
里見弴縁談窶主人公は鎌倉扇ヶ谷に住む。今は無い扇ヶ谷にあった鉱泉旅館「香風園」に触れられ、景清土牢の跡がシーンとして現れ、銭洗弁財天で遊ぶシーンも描かれる。
澁澤龍彦建長寺建長寺をテーマとする澁澤の随筆。明月院のある明月谷に住む澁澤はそこを「幽邃な土地」とし、トラツグミの怪奇な声、小綬鶏、ウグイス、ホトトギス、フクロウなどが鳴くことを紹介している。
島崎藤村桜の実の熟する時二十歳前後の藤村の自伝的小説。友人として北村透谷なども出てくる。一部鎌倉がシーンとして出てくるが、大部分は東京が舞台。
島崎藤村「桜の実の熟する時」の続編。樋口一葉がほんの少し登場する。北村透谷の自死も描かれる。岸本(藤村)彷徨の過程で一時円覚寺に滞在する。鎌倉がシーンとして出てはくるが、大部分は東京が舞台。
神西清ハビアンの説法鎌倉が舞台。腹切りやぐらのある東勝寺跡と日蓮の辻説法跡地がシーンとなる。短編。
神西清水と砂鎌倉が舞台。主人公の女性は海が特別に好き。かつての海浜ホテルや松林、砂丘などが描かれる。短編。
高見順胸より胸に主人公は鎌倉に住んでいる。終盤に逗子へ転居。鎌倉のシーンとしては由比ヶ浜や円覚寺が出る。場面の多くは浅草が占める。長編。
高見順三面鏡主要人物の妻の墓が北鎌倉の寺にあり、またその娘が逗子に居ることなどから、その北鎌倉の寺での墓参や鎌倉の海での海水浴のシーンなどがある。大部分は東京が舞台。長編。
高見順呟く幽鬼鎌倉のサナトリウムに入っている主人公の話。主人公の精神の弱体、ノイローゼの気味が表出されている。高見自身、鎌倉大町のサナトリウムに入院していたことがあり、ノイローゼに陥っていた時期があったというから、その頃の作品か。短編。
高見順死の淵より癌に侵された高見が自分の死と向き合いながら綴った壮絶な詩集。円覚寺での詩や「七里ヶ浜K病院で」の詩が含まれる。
太宰治道化の華鎌倉海辺の療養院が舞台。海中心中した大庭葉蔵(「人間失格」の主人公と同名)は生き残り、女性の方は死体となって袂ヶ浦(腰越)の波打ち際で発見されたという、太宰自身の実体験がもとになっている。
太宰治人間失格本作は完結した小説としては太宰の最後の作品。事実そのままでないとしても、太宰が自分を語り尽くした自叙伝だ。鎌倉のシーンはあの有名な腰越小動崎の自殺未遂の一件だ。その後の顛末にも触れている。主人公の名は「道化の華」と同じ葉蔵。
立原正秋鎌倉夫人鎌倉が舞台。心とは裏腹に肉体はしっかり反応しているというような動物的行為をいかにも当然のことのように書いてあるのに嫌悪を感じる読者がいるかもしれないが、実は崇高なメッセージを孕んだ作品。長編。
立原正秋美しい城舞台の大部分を鎌倉が占める。「美しい城」とは感化院(少年院)のことを指している。長編。
立原正秋冬のかたみに「幼年時代」「少年時代」「建覚寺山門前」の三章構成。「建覚寺」とは円覚寺を指すものと考えらえる。風景や自然の描写、とくにそこから獲得する動物や山菜などをいかに処理し、料理して、食事にしていくかを記述した箇所が多く面白い。「幼年時代」「少年時代」からは美食家立原のルーツが窺える。長編。
立原正秋春のいそぎ舞台の大部分を鎌倉が占める。主要人物の一人が鎌倉山の古い洋館に居住している設定は「鎌倉夫人」と同じ。長編。
立原正秋やぶつばき不倫を扱う。「春のいそぎ」と同じような不倫のパターンが見られる。短編。
立原正秋秘すれば花随筆(立原は「雑文」と表現)を集めたもの。鎌倉に住む立原が自ら魚などの食材を調達し、料理して、美食にかけてはいかにこだわっているか、あるいは立原も同じ鎌倉文士の小林秀雄や川端康成等の作家にいかに強く影響を受けているか、さらには日本の中世という時代から、いかに深く影響されているか、など立原の素性がよく知られる随筆集。
立原正秋薪能鎌倉が舞台。立原の作品に割とよくある鎌倉の没落した名家におけるもの。
立原正秋剣ヶ崎鎌倉と三浦半島の南端、剣ヶ崎が主要な舞台だが、タイトルのとおり、鎌倉の描写は少なく、剣ヶ崎が多く描かれている。そこは釣りの良いポイントだが、作中にも釣りのシーンが多く描かれている。テーマは朝鮮半島出身の立原の血に関わるもので深刻だ。
立原正秋相聞歌鎌倉が舞台。男女の純愛を描く。短編。
立原正秋剣と花鎌倉が主要な舞台の一つ。鎌倉では主に鎌倉山の広大な屋敷が舞台となる。長編。
立原正秋残りの雪鎌倉が主要な舞台の一つ。鎌倉の風景美が多く描写されている。大人たちの恋愛を描く。長編。
永井龍男日向と日陰鎌倉での人事や自然、歴史を書いたエッセー的短編。これぞ「短編の名手」と言われた永井らしいタッチの名品。
永井龍男往来「私」が居住する鎌倉が描写される。庭に二尺もの雪が積もるなど、季節感がよく出ている。エッセー的短編小説。
永井龍男冬の日鎌倉とは明記されていないが、「大仏」「国宝館」「寺の多い町」などのワードから鎌倉が舞台であることは間違いない。雰囲気のある短編。
永井龍男電車を降りて「電車」とは横須賀線のこと。鎌倉駅前が舞台。永井らしい深く味わいのある短編。
永井龍男杉林そのほか鎌倉に住む「私」とその家族や住居を中心としたエッセー風短編小説。
永井龍男鎌倉での自然や人事に触れた作品。月が主題。瑞泉寺での月見が描かれる。同寺にある永井の義兄、久米正雄の墓を見舞うシーンもある。
永井龍男日常片々少し昔の鎌倉を描いた短編。
中野孝次実朝考 ホモ・レリギオーブスの文学突然変異的に実朝のあのような独創的な奇跡の歌が生まれた疑問を解明していく非常に興味深い本。
中山義秀鎌倉交遊記鎌倉文士の紹介や中山の彼等との交遊を記した随筆。
夏目漱石こころ鎌倉での海水浴のシーンがあり、そこで「先生」と「私は」出会うのだ。漱石自身、家族の避暑のために材木座に別荘を借りていたという。長編。
夏目漱石円覚寺塔頭での10日間ほどの参禅のシーンがある。漱石自身、この小説の主人公のように神経を病み、円覚寺塔頭帰源院に止宿して、やはり10日間ほど同寺の高僧釈宗演のもとに参禅した経験がある。長編。
西尾正海よ、罪つくりな奴!鎌倉の海浜を主な舞台とした短編。意外な結末。
西尾は鎌倉に居住していた。その作品は鎌倉を多く舞台としている。
西尾正骸骨鎌倉を舞台とする怪奇小説。短編。
西尾正床屋の二階鎌倉を舞台とする怪奇小説。ドッペルゲンガーを題材とする。短編。
西尾正青い鴉鎌倉の海浜を舞台とする怪奇小説。西尾らしい意表を突いたストーリー。
西尾正線路の上やはり鎌倉舞台の怪奇小説。短編。
西尾正試胆会奇話鎌倉材木座の海際の家とその近くの光明寺上の山が舞台。短編。
西尾は材木座に住んでいたせいか、鎌倉でも材木座近辺の海辺を舞台とする作品が多いようだ。先の戦争前後の古き良き閑静な鎌倉が種々の作品の中で描写されている。
西尾正歪んだ三面鏡たとえば「海岸地K県K市」とか「Kホテル」とかアルファベットを当てているが、舞台が鎌倉であることは明白。やはり海辺が舞台になっている。精神異常者の怪綺談。短編。
西尾正女性の敵たとえば「海の銀座」とか「Z町」とか記して地名をぼかしているが、舞台が鎌倉であることは明白。やはり海辺を舞台としている。二つの殺人事件に絡むミステリー小説。短編。
西尾正地獄の妖婦主人公は砂丘の上の瀟洒な家で暮らしている恋愛作家。明記されていないが、砂丘は鎌倉の海のものであることは間違いない。家から海を眺める場面があるが、この恋愛作家は渚に輝く夜光虫の光を見ている。怪談。短編。
西尾正海辺の陽炎日蓮上人の白猿伝説や火葬場のことに触れていることから、舞台は名越の切通しから逗子の法性寺がある山中を選んでいるようだ。面白い小説だが、未完であることが悔やまれる。
林房雄緑の水平線鎌倉に住む小説家が主人公。とくに釣り好きには徹頭徹尾楽しい長編小説だが、単なる釣りの紹介ではなく、様々な個性的人物が登場し、小説としてスリリングにストーリーが展開していく。
江ノ島のカワハギ、由比ヶ浜沖のハナダイ、そしてかつて由比ヶ浜にあった「大海老」というレストランでの釣果を持ち寄ってのBBQのシーンなどがある。扇ヶ谷の風景描写もあり、大船松竹のニューフェイス(女優の卵)も僅かながら登場する。
ちょっと意外なのは、ベラはフライ、さらには刺身にして美味だとあり、またブラックバスは食える魚で、もっといえばうまい魚であると書かれていることだ。
久生十蘭あなたも私も鎌倉と東京が舞台。鎌倉のシーンも相当量を占め、鎌倉では材木座(飯島岬辺り)、扇ヶ谷が主な舞台。長編。
久生十蘭だいこん日本が降伏した昭和20年8月15日から翌年9月2日、日本と連合国との間で交わされた休戦協定の調印式が行われるまでを範囲とした長編小説。日本にとっては大変深刻な時期にあたっているが、この小説は十七・八の聡明な女子の日記の体になっているので、そう暗いものではない。「あなたも私も」の主人公サト子に共通するキャラクターで、なるほど、この作品でもその女子の名前は里子(石田里子)という。
舞台は鎌倉が主なものだが、鎌倉の風景などは全く描写されていない。
久生十蘭キャラコさん戦前、といってもこの作品が発表されたのは昭和14年だから、日中戦争はすでに開戦されているこの時代に、作品の雰囲気は明るい。主人公は十九歳の明るく健康的なお嬢さんだ。そのキャラクターは「だいこん」、さらには「あなたも私も」の主人公に通じている。本作は約十編ほどの短編を集めたオムニバスだ。舞台は伊豆であったり、丹沢の山中であったり、芦ノ湖であったりと様々だが、「海の刷画」の編では江ノ島、腰越、稲村ヶ崎の辺りの海が舞台となる。由比ヶ浜にかつてあった「海浜ホテル」も出てくる。
「キャラコさん」も「だいこん」も共に女主人公のニックネームであることも両作品の共通点だ。
広津和郎静かな春鎌倉坂ノ下の「星の井」の前に住む広津の生活と鎌倉の風景とが美しく融合する名作。短編。
ちなみに、この頃の「星の井」は住民の飲料として使用されている。
広津和郎波の上「静かな春」で描かれた坂ノ下の家から眺望される美しい鎌倉の海景は、本作でもそのまま書き綴られるのだが、次に起こるのは、それまで伏在していた家庭的不幸の顕現だった。短編。
広津和郎線路主人公は円覚寺の近くに住む。日課の散歩では横須賀線の線路の中を歩くこともあるが(そんなことができた呑気な時代!)、そこで遭遇した一匹の蛇の運命を描いた短編。
広津和郎神風連夏の鎌倉を舞台とする青春物語。ここで「神風連」とは非常に悪質な不良青少年グループ。江ノ電はまだ鎌倉まで通わず、極楽寺が終点だった。極楽寺坂を行くとき、坂が急すぎて大変滑ったとある。今もある坂ノ下の権五郎の力餅も出てくる。短編。
広津和郎泉へのみち主人公は健康的で素直な二十三歳の女性。小町通り商店街の出入口に今もある鉄ノ井の近くの家で十八になるまで暮らす。それからある出来事により東京の成城学園へ転居して現在に至るが、母と二人きりで過ごした鎌倉でのことが、今もなお深く心に刻まれている。大別して東京と鎌倉が舞台となるが、鎌倉では由比ヶ浜、鶴岡八幡宮、八幡宮内の美術館、北鎌倉がシーンとして出てくる。長編。
深田久弥鎌倉夫人鎌倉が舞台。かつあった「海浜ホテル」、海水浴客で賑わう由比ヶ浜、建長寺境内にかつてあった茶屋などが出てくる。上流階級の夫人たちと市バスのバスガールたちとの対立をコミカルに描きつつ、一人の男性に二人の女性が絡んでいる男女の複雑な事情が明かされていく。
宮本百合子新緑きっと鎌倉の家でのこと。書き手は朝の新緑の美しさを眺めるのが悦びとしている。それから夜の闇の濃さへと筆が及び、ホトトギスの古歌が挙げられて、源実朝が山から出ずるホトトギスの心と同心になっているとの感想を述べる。短編。
宮本百合子蓮華図建長寺裏で送る生活の一場面に美しい白蓮が現れる。池中に咲く白蓮と絵画に描かれた蓮とがしっとりと響き合う短編。
宮本百合子この夏書き手は北鎌倉明月谷で暮らしている。明月谷の風景、住まいに付設する釣堀での鯉釣り(同居人は鯉の洗いが大好き)、真夏の午後三時の山の青葉の美しさを眺める悦び、家に沢山いる虫について書かれている短編。
宮本百合子明るい海浜鎌倉舞台。かつてあった由比ヶ浜の砂丘が出てきて、そこでの遊びが主人公の憂鬱な気分を晴らしてくれる。短編。
宮本百合子青春「明るい海浜」同様、由比ヶ浜の砂丘が、この短編小説の重要な道具立てとして使われている。