旧前田邸と鎌倉文学館
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消滅してしまう旧前田邸

鎌倉市の長谷にある「鎌倉文学館」は鎌倉の観光スポットとして主要なものの一つですが、2023年から休館していて、現在(2025年)、中には入れません。
2029年の春に再開予定としていますから、実にあと約3年半の間というもの、私たちはあの素敵な場所を堪能することができないのです。
休館しているのは、この間、大規模改修工事が行われているからで、リニューアルオープン後は、これまで非公開だった3階が開放され、またカフェやショップが新たに設置されるそうです。
鎌倉文学館は、元あの加賀百万石の前田家の別荘であったもので、青いスパニッシュ瓦で葺かれた壮麗な洋館から海へ向かって開けた広大な庭園まで、全てがその別荘のうちだったのですが、1983年にその建物が鎌倉市に寄贈され、以後文学館として開放されたので、私たちもそこへ立ち入って、そこの広壮な空気を楽しむことができるようになったのでした。
文学館の敷地内にはもう一つ洋館が建っています。文学館へ至るアプローチの左側にあり、以前は「前田」の表札がありましたが、いつからかそれが無くなっていました。
「なぜだろう?」
ちょっと気にはしていましたが、なるほど、文学館の改修工事に併せて、ナント残念なことに解体されるのだそうです。
1971年に前田家の居住用として建てられたもので、実は今日まで長く空き家になっていたそうで、鎌倉市としてもその活用方法を検討してきたそうですが、諸般の理由から、やむなく解体消滅の運びと相なったのだそうです。
たとえば軽井沢には鎌倉に大変なゆかりがある川端康成の別荘がありましたが、残念なことに惜しまれながらも解体消滅してしまいました。
今年(2025年)秋、解体される前に現地見学会が鎌倉市役所において開催され、本記事の画像はそのときに撮影したものです。
旧前田邸を記録として残しておきたいという意味もあります。




鎌倉文学館
ここに掲載する写真も今年(2025年)秋に鎌倉市役所において開催された現地見学会において撮影したものです。
2023年からほぼ2年半休館状態にあったことや秋のことだったので、建物の上の方に大きな球体のスズメバチの巣が見られたりしました。


この文学館は三島由紀夫の小説、「春の雪」の一つの重要な舞台になっていることから、私には特別に思い入れがあります。
「夏の日のこの風光の壮麗は、比べるものとてなかった。・・・」とあり、また「南面するテラスからは、正面に大島がはるかに見え、噴火の火は夜空の遠い篝になった。・・・」などと描かれるこの旧加賀前田家別荘には並々ならぬ憧憬を抱いております。
(上のかぎかっこ内は、三島由紀夫著 「豊饒の海」第1巻「春の雪」 株式会社新潮社 平成17年11月10日 68刷 からの引用です。)
この洋館は1936年に建てられたもので、今日までほぼ90年が経過しており、しかもこの間、ほとんど修繕工事等が行われていなかったそうで、だからこの度の足掛け5年以上にも及ぶ大規模リニューアル工事が敢行されているとのことでした。



Lab 鎌倉奥乃院 代表 益田寿永

